「イエーイ!」
7月上旬。関西空港連絡橋を望むタルイサザンビーチ(大阪府泉南市)に浮かぶ大型SUP(サップ)の上で、義足ユーザーの女性たちがポーズを決めた。
参加した5人は、必需品の義足を脱いで、海へこぎ出した。「想像より、全然前に進む」。1人乗りに挑戦し、果敢に片足立ちに挑んだ女性は、SNSで義足の人がSUPに立てることを知り、やってみたかったという。声援が飛ぶ中、何度も海に落ちながら「難しかった。でも挑戦できてよかった!」と楽しげだ。
参加者たちは「小学生の時以来かも」「そもそも泳いだことがない」と口にした。義足は、さびにつながる水や塩分を嫌い、部品に入り込む細かな砂も御法度。足元が不安定な砂浜を歩くにはサポートが必要な場合も多く、義足の人にとって海は遊びに行く選択肢に入りにくい。海の上となればなおさらだ。
「でも、だからこそ体験して欲しかった」
そう話すのは、義足の女性のためのコミュニティーを運営するNPO法人「ハイヒール・フラミンゴ」(大阪府大東市)の野間麻子代表(56)だ。
「行けるところではなく、行きたいところへ行こう」が合言葉。日常生活では出会う機会が少ない義足の女性たちを交流会でつなげ、これまでヨガやフラダンス、フットネイルなどの、義足や素足を出して個人で参加するには勇気が要りそうな体験会を開いてきた。今回、大型SUPにはインストラクターが同乗するなど安全面には特に配慮した。足の切断部分を見られたくない人のために、波打ち際に着替え用テントを立てるなど、入念な準備で臨んだ。
海に繰り出したのは、実は2度目だ。2019年秋、「海に行きたい」という声を受け、神戸の砂浜を歩く会を開催。義足にプラスチック製のカバーをつけて波打ち際を歩いた。初めての人も久しぶりの人も、足の指の間を流れていく砂や水の感覚を楽しんだ。
活動開始から7年。メンバーは70人近くまで増えた。「仲間も協力者も増えて、世界が広がっている実感があります」と野間さんは話す。
「1人では無理でも、みんなと一緒ならハードルを越えていける」。次は何に挑戦しようか、わくわくしながら考えている。
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