先祖代々の墓石を撤去する「墓じまい」が、かつては抽選で当たらないと借りられなかった都市部の公営墓地にも広がっている。読売新聞が全国20政令市と東京都の公営墓地(総区画数約80万)の利用状況を調べたところ、2019~23年度の5年間で1万区画以上の利用が減少していた。空き区画が目立つ墓地もある。(福永健人)
兵庫県西宮市の女性(54)は昨夏、神戸市立 鵯越 墓園(神戸市北区)にあった祖父母の墓の区画を市に返還した。少し前に86歳で亡くなった父は生前、「墓参りの負担を子どもに押しつけたくない」と言い残していた。祖父母の遺骨は父の遺骨と合わせて、自宅近くの同県宝塚市内の寺の「 合葬墓 」に移した。
鵯越墓園の墓は、父が40年ほど前に抽選に当たって借りた。自宅から車で約1時間の山沿いにあり、車を運転できない平松さんは、管理できるか不安だった。子どもがおらず、自分の死後に墓が「無縁墓」になるリスクもあった。「父から墓じまいを持ちかけてもらえてよかった」と語る。
無縁墓は景観悪化や廃棄物の不法投棄につながる。総務省が23年に発表した実態調査では、公営墓地を運営する765自治体のうち6割近くが「無縁墳墓がある」と回答。鵯越墓園でも発生しているという。
厚生労働省の統計調査「衛生行政報告例」では、遺骨を別の場所に移す「改葬」は23年度、国内全体で過去最多の16万6886件。多くが「墓じまい」とみられ、10年前の2倍近くになっている。少子高齢化や若い世代の都市部への流出などが背景にあり、「田舎の実家の墓じまい」が注目されてきたが、近年は都市部でもその動きが活発だ。
全国20政令市と東京都に、公営墓地の19~23年度の区画利用数を尋ねたところ、新規利用許可は約1万7600区画で、返還は約2万7900区画。返還が1万区画余り多かった。「墓じまい」が増えたためとみられ、利用増は仙台市や川崎市など4市だけだった。
大阪市運営の「泉南メモリアルパーク」(大阪府阪南市、約2万区画)は近年、空き区画が目立つ。開設された1979年度から96年度まで毎年600~1800区画程度の新規利用の申し込みがあったが、97年度以降は500区画未満、2020年代は50区画程度にとどまる。
一方、20年代は毎年200~400区画程度が返還され、空き区画が増加。全体の15%にあたる約3000区画が貸し出し待ちだ。管理事務所の担当者は「ここ5年ほどで虫食い状態が目立ち始めた」と語る。
改葬先「合葬墓」に注目
近年の墓じまいニーズについて「潜在的な需要は以前からあったが、予想以上に多い」と話すのは、葬祭関連業「ハウスボートクラブ」(東京)の赤羽真聡社長(40)だ。元々の海洋散骨事業に加えて、2023年5月から手続きのサポートや改葬先探しの相談事業を始めると、月300件以上の問い合わせがあったという。
また、墓じまい後の改葬先として人気が高まっているのが公営合葬墓だ。公営墓地内で、複数の遺骨を合同で納める施設で、樹木葬にするケースもある。
神戸市は18年度にモニュメントと納骨施設が一体になった合葬墓を設置。当初は収容能力を約1万体とし、50年かけて使う予定だったが申し込みが殺到し、3年間で9000体分が予約で埋まった。増築などで収容能力を約2万体に増やしたが、23年度末で既に約1万2700体の使用が決まっているという。
市の担当者は「公営合葬墓は、墓を守る後継者のいない人にとってのセーフティーネット。今後も整備を進めたい」と説明する。
他市も整備に乗り出しており、さいたま市は19年度から、福岡市は21年度からそれぞれ運用。墓じまいでの利用が多いという。
墓地行政に詳しい奈良県立医科大の今村知明教授(60)(公衆衛生学)は「弔い方は個人の自由だが、『子孫が墓を守る』という慣習任せでは無縁墓の増加は防げない。合葬墓の整備など行政も時代に合った対応が必要だ」と話している。
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