防災の日の9月1日、各地で防災訓練が行われていますが、ことし7月にロシアで起きた巨大地震の対応をめぐり、課題も出ています。
当時、大阪府の沿岸にも津波注意報が発表され、被害を防ぐために水門などを閉めることになっていましたが、一部は閉鎖できていませんでした。
大阪港湾局は検証を進め、今後の対策に生かす方針です。
ことし7月30日にロシアのカムチャツカ半島付近で発生したマグニチュード8.8の巨大地震では、大阪府の沿岸にも東日本大震災以来14年ぶりに津波注意報が発表され、最大で30センチの津波を観測しました。
津波注意報が出された場合、大阪府は、浸水の被害を防ぐために、自治体に対し、沿岸部に設置された水門や「陸こう」と呼ばれる施設を閉めるよう求めています。
ところが、府が設置した71か所の施設のうち、岸和田市の2か所については、地元の漁業協同組合から「車両が通行できず水揚げした魚を出荷できなくなる」という声があがり、市の判断で閉鎖しませんでした。
また、和歌山市に隣接する岬町の1か所は、閉鎖すると周辺の道路を使えなくなるため、住民との協議に時間がかかり、閉めることができたのは津波の到達予想時刻のおよそ6時間後でした。
施設を所管する大阪港湾局は、各自治体にヒアリングを行い、課題の検証を進め、今後の対策に生かす方針です。
【岸和田市“現場からも話聞き今後の対応検討”】
岸和田市には大阪府が設置し、津波注意報が発表された際に閉鎖することになっている水門や「陸こう」が9か所ありますが、このうち、2か所は地元の漁協の声を受けて、市の判断で閉めませんでした。
市は、潮位の変化に注意し、必要に応じて速やかに閉鎖できるよう職員の体制を維持したということです。
岸和田市産業政策課の上東束 課長は「漁業活動の状況も考慮すると閉鎖に対し どうしてもちゅうちょせざるをえない状況だった。市民の安全を第1に守るべき一方で、漁業を始めとした産業活動の継続も重要で、この2つを同時に両立するには非常に難しいと実感した」と当時の判断を振り返りました。
そのうえで、「大阪府と意見交換を進めていくほか、現場からも詳しく話を聞かせてもらいながら、今後の対応を検討していきたい」と話していました。
【岸和田 春木漁協“閉鎖の被害補償も考えて”】
岸和田市にある春木漁業協同組合の中武司 組合長は「テレビで北海道や東北の状況を確認していたが、津波が来ている様子はなく、岸和田に1メートルの津波が来ても海面から岸壁まで2メートルは余裕があったので、一部の水門を閉めないように市に要望するという判断になった。津波警報だったらしかたがないが、津波注意報でマニュアルどおりに水門を閉めていたら、魚を水揚げできなくなり商売が成り立たなくなる」と述べました。
中組合長や市によりますと、2018年9月に、関西空港の滑走路が浸水するなど大きな被害をもたらした台風21号の影響で、水門を閉めた岸和田漁港では内部に海水がたまり、車両などに被害が出たということです。
中組合長は「水門を閉めたことで漁港が被害にあうのは『天災』ではなく『人災』だ。台風21号の際は、水産関連の車両や道具が浸水しても支援が手薄だったので、水門を閉めて被害が出た場合の責任や補償についても行政は考えてほしい」と話していました。
【岬町“今後は速やかに閉鎖 住民にも説明へ”】
岬町には、大阪府が設置し、津波注意報が発表された際に閉鎖することになっている水門や「陸こう」が24か所ありますが、このうち1か所は、閉鎖できたのが津波の到達予想時刻のおよそ6時間後でした。
町によりますと、この「陸こう」を閉鎖すると、周辺の道路を閉鎖することになるため、住民との協議に時間がかかったことが理由だということです。
町では、その後、府と協議を行って、「津波注意報」が発表された際には速やかに閉鎖することを改めて確認したということで、今後、住民にも説明して理解を得る方針だとしています。
【過去被害と大阪府の対応】
2018年の西日本豪雨で大規模な浸水被害が出た岡山県倉敷市真備町では、交通量の多い道路を通行止めにできず、「陸こう」を閉鎖できなかったため、川の水があふれ短時間で浸水範囲が広がりました。
大阪府は津波や高潮による浸水被害を防ぐため、沿岸部に、水門や「陸こう」を合わせておよそ180か所、設置しています。
このうち、71か所については府の「海岸保全施設操作規則」で、自治体に対し、津波注意報が発表された際には速やかに施設を閉鎖するよう求めています。
ただ、水門や「陸こう」が閉鎖されると、道路が通行止めになったり橋が渡れなくなったりするため、全国でも施設を閉じることができなかったケースがあり、確実に閉鎖できるかが大きな課題となっています。
【専門家 “あらかじめ議論を”】
今回の対応について、災害時の行政の対応に詳しい大阪公立大学の生田英輔教授は「災害では想定外のことが起きるので、安全ラインに立って、津波注意報の段階で水門や陸こうを閉鎖するルールは間違っていないと思う。ただ実際には、住民の生活や産業があり、簡単には閉鎖できない現実があることが浮き彫りになった。安全を守ったうえで、生活や産業と折り合いをつけていくためには、地域の声を聞き、あらかじめ議論しておく必要がある」と指摘しています。
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