大阪府泉佐野市は、親が養育できない新生児を匿名で預けられる「赤ちゃんのゆりかご(仮称)」を、りんくう総合医療センター内に設置する計画を進めている。2026年度中の開設を目指し、2026年1月にも同センター内にワーキンググループを立ち上げ、具体的な事業計画の策定に着手する方針だ。
赤ちゃんポストは、望まない妊娠や困窮を背景とした乳幼児の遺棄や死亡を防ぐ目的で、2007年に熊本市の慈恵病院が国内初として導入。2025年には東京都墨田区でも設置され、泉佐野市は全国で3例目を目指す。計画では、周囲に妊娠を知られずに出産できる「内密出産」も併せて受け入れる体制を想定している。
一方で課題も多い。赤ちゃんポストの運用には、24時間対応の乳児用設備や、母親のプライバシーに配慮した相談スペース、短期滞在施設などの整備が必要となる。また、看護師など医療従事者の業務負担増加や、周産期医療拠点としての既存医療への影響も懸念されている。
受け入れ後の養育体制も大きな論点だ。預けられた子どもは児童相談所を経て乳児院に入所するが、泉佐野市は児相や乳児院を所管しておらず、大阪府との連携が不可欠となる。府内の乳児院は定員が常に高い水準で、新生児の受け入れ余力は限られているのが現状だ。
さらに、国が推進する「家庭養育」(特別養子縁組や里親制度)の普及も十分とは言えない。社会的養護が必要な3歳未満児のうち、家庭養育を受けている割合は全国・府内ともに目標水準には届いていない。
専門家は「赤ちゃんポストは緊急時の命を守るための手段であり、その後の養育まで含めた責任ある体制づくりが不可欠」と指摘する。今回の計画が、府と市が連携して社会的養護のネットワークを強化する契機となるかが問われている。







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