南海電車

「南海の和泉中央」駅長に聞く泉北線終着駅の変遷 かつて「泉北高速鉄道」の本社があった駅ビルは今

南海電気鉄道は大阪南部から和歌山にかけてのエリアを地盤としており、2つの幹線がある。

大阪中心部のターミナル、難波と和歌山市を結ぶ南海本線は途中、泉佐野から空港線が分岐しており、難波―関西空港間を行き来する特急「ラピート」や「空港急行」の車内は毎日大勢のインバウンド客でにぎわっている。

もう1つの高野線は、高野山方面の特急「こうや」が観光客輸送に活躍するほか、沿線を開発したベッドタウンの通勤通学の足として利用者が多い。

2025年から「南海泉北線」に

南海電鉄は現存する最古の私鉄とされる。1885年12月、当時の阪堺鉄道・難波―大和川間(7.6km)が開通し、小型蒸気機関車が走ったのが始まりだ。140周年の節目の年にあたる2025年、新たな路線が仲間に加わった。

その名称は「泉北線」。堺市にある高野線の中百舌鳥(なかもず)から分岐して、和泉市の和泉中央までを結ぶ14.3kmの路線だ。

従来、連結子会社の泉北高速鉄道が運営し、青のラインと「SEMBOKU」のロゴを旗印にした車両が難波まで乗り入れて存在感を放ってきたが、吸収合併によって2025年4月1日付で南海電鉄の路線となった。

泉北線は1971年4月、第三セクターの大阪府都市開発が泉北高速鉄道線・中百舌鳥―泉ケ丘間を開業させたのが始まり。1977年8月に光明池まで延伸した。

和泉中央まで延伸開業したのは1995年4月のことだった。2014年7月に南海電鉄が株式を取得して子会社化、社名も泉北高速鉄道となった。

中百舌鳥―和泉中央間には深井、泉ケ丘、栂・美木多(とが・みきた)、光明池と4つの途中駅があり、沿線に国内有数の規模を誇る「泉北ニュータウン」が広がっている。

中百舌鳥で大阪メトロ御堂筋線に乗り換えられる。御堂筋線は大阪中心部を天王寺・なんば・梅田・新大阪と南北に貫き、北大阪急行線に乗り入れる。大阪北部の「千里ニュータウン」の中核である千里中央を経て、2024年3月に延伸開業した箕面市の箕面萱野までを結ぶ。

和泉市のニュータウンの玄関口

和泉中央駅は阪和自動車道と府道に挟まれた土地に位置する。駅を囲むように「エコール・いずみ」「和泉シティプラザ」といった大型施設や「いぶきの病院」が建ち並ぶ。

周辺はマンションや一戸建ての住宅地でUR都市機構(旧・住宅・都市整備公団)によって「トリヴェール和泉」という名称で開発され、「いぶき野」「はつが野」「まなび野」「あゆみ野」と名付けられたエリアが生まれた。

和泉中央駅の所在地はいぶき野。駅南のまなび野には桃山学院大学のキャンパスがある。学生だけでなく、資格試験などの会場に使われることから、休日もキャンパスへ向かうために駅を利用する人が多いという。

地下1階にあたるホーム階には島式ホームに1番線と2番線。留置線がその外側に1本ずつと、中百舌鳥と反対方向の南西へ2本延びている。

難波行きの泉北線の電車に乗っていけば、中百舌鳥から高野線に乗り入れ、三国ヶ丘でJR阪和線、天下茶屋で大阪メトロ堺筋線、新今宮でJR大阪環状線と、途中駅での乗り換え利便性は高い。

朝と夕方以降は上り・下り両方面に有料座席指定の「泉北ライナー」が設定されている。平日の日中でも上り方面へは1時間に難波行き準急が2本、区間急行が4本、中百舌鳥行きの各駅停車が2本の計8本が走る。

当初は「8階建て駅ビル」の計画

改札口は地上1階に2カ所あるが、1つは出口専用。大きな吹き抜けがある駅ビルの1階と2階にいくつかの店舗が入っている。1階から出るとバスターミナル、2階には駅周辺の大型施設と直結するペデストリアンデッキがある。

泉北高速鉄道の本社もこの駅ビルに置かれていた。大阪府都市開発が1996年3月に発行した社史によると、1989年12月に策定した駅ビル事業化プランでは8階建てとなる計画だった。「しかし、その後の経済情勢の悪化等により、当初計画の実現は困難と判断せざるを得なくなり、駅舎等、必要最小限の機能にとどめ、駅ビルは3階建てでの着工となった」という。

一方で「今後の公団の地区センター整備状況や駅周辺の街の成熟度との整合性を図りながら、駅ビル事業を進めることが可能なよう、高層化に対応できる基礎工事を先行して施している」とも説明している。

和泉中央駅の置田裕彦駅長は「開業当時はお客様が少なかったので、夜遅くに電車が到着すると降りられる方はパラパラでした」と振り返る。

置田駅長は1987年に南海電鉄に入社。南海に運転や駅の業務が委託されていた当時、泉ケ丘駅に配属された。和泉中央駅まで延伸開業した1995年4月、職場はそのままで大阪府都市開発に入社した。

和泉中央駅長になったのは2024年12月。深井駅から和泉中央駅までの泉北線5駅を管轄する。

いまは南海電鉄運輸車両部(サービス担当)上級主任の鎌倉公輔さんも大阪府都市開発・泉北高速鉄道の出身。「私が入社したのは1997年ですが、駅の周りはお店なんて全然なかったのに、かなりの勢いで出店が進みました」という。

「南海泉北線」で何が変わった?

泉北高速鉄道から南海電鉄の路線になって、何が変わったのか。置田駅長は「運賃がかなり下がって、ご利用していただくお客様にとってはよかったかな、と思います」と話す。

従来は南海線内まで行く場合、初乗り運賃が南海と泉北で「二度払い」があったが、合併によって南海の運賃表に統一された。定期運賃は通学が平均38.8%、通勤は平均23.5%、普通運賃は7%の値下げができたという。和泉中央―難波間の6カ月通学定期券の場合は6万2430円から3万5860円になった。

「いまは通しの運賃となって安くご利用いただけるようになりました。実は中百舌鳥から難波までより、中百舌鳥から和泉中央までのほうが距離が長いのですが、以前は『5駅しか乗っていないのに運賃が高い』ともよく言われていました」(鎌倉さん)

鎌倉さんが泉北高速鉄道時代に力を入れたことの1つが駅のトイレのリニューアルだった。「商業施設のきれいなトイレをイメージしました。とくに女性用は洗面台とは別にパウダーコーナーを設けています」。

泉北高速鉄道時代の思い出

置田駅長は、泉北高速鉄道時代について「会社自体が小ぢんまりしていたので職場の枠を越えて顔なじみの社員ばかりでした。お客様も同じで、車庫でのイベントの際、子供さんを連れたお母さんが『この駅員さん、私が学生の頃からいてるわ』と話しているのを聞いて『自分も年いったな』と感じたことがあります」と振り返る。

駅や車内の表示は南海のスタイルに統一され、元泉北車両の車体側面のロゴも「NANKAI」に変わるなど泉北の独自色は薄れつつある。だが、歴史ある南海本線・高野線の沿線ではあまり見かけない、和泉中央駅の近未来的で重厚な造りの駅舎はこれからも泉北高速鉄道の記憶を語り継いでいくに違いない。

「南海の和泉中央」駅長に聞く泉北線終着駅の変遷 かつて「泉北高速鉄道」の本社があった駅ビルは今(東洋新聞オンライン)

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