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「大阪で1番リッチ」な田尻町、人口8300人の小さな自治体が圧倒的な「財政力」を持つワケ(楽待)

手厚い住民サービスも、今後の財源には課題あり?

大阪湾に浮かぶ関西国際空港。その一部を町域に含む大阪府泉南郡田尻町は、人口わずか8300人あまりの小さな自治体でありながら、全国屈指の財政力を誇る。

町税の8割以上を固定資産税が占める特異な構造は、空港という巨大インフラの存在抜きには語れない。税収の恩恵は住民サービスにも色濃く反映されているが、その一方で将来的な税収減のリスクも抱えていると言える。

その実態を、町を歩きながら探ってみた。

関西国際空港を抱える人口8300人の町

田尻町は、面積約5.6平方キロメートル、人口約8300人の小規模な自治体である。泉佐野市と泉南市に挟まれ、地形は山地がなくほぼ平坦だ。

かつては「日本一面積の小さい町」として知られていたが、1994年の関西国際空港開港に伴い、沖合約5キロメートルに造成された関西国際空港島とも呼ばれる人工島の一部が町域に編入されたことで、泉北郡忠岡町(3.97平方キロメートル)にその座を譲った。

空港島を除いた実質的な面積は、わずか約2.35平方キロメートルにとどまる。

関西国際空港の敷地は、泉佐野市・泉南市・田尻町の3つの自治体にまたがっており、中央部が田尻町に属している。

田尻町内にある鉄道駅は、本土にある南海本線「吉見ノ里駅」ならびに人工島にあるJR・南海空港線「関西空港駅」だが、住宅地や公共施設はすべて本土側に集中していことから、町民が実生活上利用する駅は「吉見ノ里駅」であると思われる。

人口1万人未満という小規模自治体でありながら、空港という国際インフラを町域に含んでいる点は、全国的に見ても珍しい。この特殊な立地と構成が、町の財政、施策、そして町づくりに大きな影響を与えている。

空港税収で潤う、大阪トップの財政力

田尻町は、全国的に見ても財政状況が極めて良好な自治体である。

地方自治体の財政力を示す指標「財政力指数」は、2023年度に1.24を記録。この指数が1を超える場合普通交付税の不交付団体となるが、府内では唯一田尻町のみがこの団体に該当している。

また、財政力指数における全国の市町村の平均が0.48であることから、田尻町には非常に高い財政力があると言える。

この財政力の源となっているのが、固定資産税だ。驚くべきはその構成比で、2023年度の町税総額は約38.7億円だが、そのうち約32.7億円、実に84.6%が固定資産税によるものである。

総務省によると、市町村税に占める固定資産税の割合は4割程度とのことから、田尻町の比率は異例の高さと言える。

こうした特異な税収構造を生んでいるのが、町域に含まれる関西国際空港の存在である。

空港ターミナル、駅、航空関連企業のオフィスなど、多くの施設が人工島内に存在しており、それらに課される固定資産税が田尻町、泉佐野市、泉南市の税収となっている。

しかし、泉佐野市と泉南市における固定資産税が市町村税全体に占める割合は、田尻町ほど高くはない。

特に泉佐野市は、空港の玄関口に位置することから、空港に関連するインフラ整備の行政コストを広く負担しているという面がある。そのため、泉佐野市ではこうした歳出が税収を上回る状況が続いており、「空港があるから財政が豊か」とは一概に言えないのが実情である。

対して田尻町は、人工島を町域に含みながらも、泉佐野市ほど空港関連のインフラ機能を有する立地ではないことから、整備にかかる負担は小さいと考えられる。

さらに、人口が少ないため住民サービスに必要なコストも抑えられ、結果として空港由来の税収をより直接的に享受できる構造となっている。

つまり田尻町は、全国的に見ても珍しい「少人数で巨大インフラの恩恵を受けられる自治体」であり、その特殊性が町の財政力を強固にしているのだ。

手厚い住民サービスを提供

田尻町が関西国際空港を通じて得た税収は、ただ黒字として積み上げられるのではなく、町民の暮らしに還元されている。

たとえば、2019年度からは学校給食費の無償化を実施。この取り組みは大阪府内で最も早く導入され、現在も継続中だ。また、町内で住宅を取得し、居住した人に対しては「田尻漁港商品券10万円分」を支給するというユニークな施策もある。

そのほかにも、町内に住み働く30歳未満の若者を対象に、奨学金返還額を月1万円を上限に最大60カ月まで助成する制度や、妊婦に毎月4.5キログラム、子ども1人につき隔月で4.5キログラムの金芽米を支給する制度なども展開。

加えて、南海本線「泉佐野駅」と田尻町を巡回するコミュニティバス「たじりっちバス」は全区間が無料で運行されている。

実際に町を歩いてみると、豪華な庁舎や派手な公共施設といった財政力を誇示するような建物などは見当たらない。

大阪府内で最も財政力指数が高い自治体であるにもかかわらず、街並みはごく普通で、倹約を重視した財政運営がなされているのかもしれないと思うほどだ。

田尻町の地価ならびに人口動向

地価の水準と推移を見てみよう。2025年の田尻町における住宅地の地価公示価格の平均は5万6000円/平米と、大阪府内では下位グループに属する。

隣接する泉佐野市の平均地価は6万2700円/平米、泉南市は4万2900円/平米で、田尻町は両市の中間水準にある。ここ数年は大きな変動はなく、概ね横ばいで推移している。

人口面はどうか。大阪府の推計人口(2024年年報)では、田尻町は8204人(前年比プラス46人、プラス0.56%)。府内で人口が増加した6市2町の1つで、増加率は大阪市(プラス0.77%)に次ぐ2位だった。

ただし、2019年から2023年にかけては減少が続いており、2024年は小幅な増への転換にとどまる。

多様な住民サービスを提供している田尻町が、地価・人口ともに「極端な上昇」が起きにくい背景として、実生活上利用できる鉄道駅が南海本線「吉見ノ里駅」と限られ、同線「なんば駅」までの所要時間が約40分(乗換含む)である、大型商業施設がないなど、町内の生活利便性に一定の制約があることが考えられる。

田尻町は、関西国際空港を町域に含むという地理的特性を生かし、町税の約8割を固定資産税が占める財源構造を築いてきた。

しかしその一方で、財源の大半を空港に依存している構造には、将来的なリスクも伴う。とりわけ主たる財源である固定資産税については、資産評価の見直しや施設の老朽化などにより、税収の逓減が見込まれている。

また、2020年度以降はコロナ禍の影響により法人町民税が落ち込み、財政力指数も下落傾向を示している。

こうした背景を踏まえると、今後も安定した自治体運営を継続するためには、空港以外の収入源をいかに確保し、多様な財源構造を築いていくかが課題となるだろう。

現在、強靭な財政力を誇る小さな町が、次にどのような一手を打つのか。田尻町の今後の動きに注目したい。

楽待

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