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【堺市】文化財保護と開発 両立の道は(読売新聞)

 文化財を守るのか、土地開発を進めるのか。そのバランスの難しさを実感する出来事がありました。

 〈無名塚17号墳の破壊を防いでください〉。きっかけは、「 百舌鳥もず 古墳群を愛する一市民」を名乗る方から届いた匿名の投書でした。「無名塚?」。6月に堺市に住みだしたばかりの私にとって耳なじみのない名前です。

 世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」の構成資産には含まれないものの、百舌鳥古墳群の中にある古墳の一つで、「令和の時代に開発で壊されることを許してよいのか」と憤る内容でした。気になって早速調べることにしました。

 無名塚17号墳は、堺市北区の私有地にある墳丘(東西約13メートル、南北約10メートル、高さ約2・4メートル)です。地表面の土を掘り返して上下逆に積み直す「天地返し」と呼ばれる構築技法が使われ、これは百舌鳥古墳群の特徴の一つだそうです。出土した 土師器はじき の破片の年代から5世紀の古墳だと判明しています。

 現地を訪ねてみると、住宅街の一角に小高い丘のような墳丘がありました。一見したところ、土が山積みになっているようですが、「天地返し」の跡がくっきり残っているのがわかりました。「本当に壊してよいのだろうか」。市に事情を取材しました。

 経緯は判然としませんが、無名塚17号墳は市博物館の記録で「全壊」と記されており、市文化財課も現存していないという認識だったそうです。史跡にも指定されていません。今年3月に土地所有者から宅地開発の届け出を受け、市が現地で確認調査をしたところ、古墳が現存していることがわかりました。

 市はすぐに保存ができないか土地所有者と協議に入りました。4月いっぱいかけて話し合いを続けましたが、土地所有者側にも「宅地開発事業の継続性があり、売却できない」との事情があって折り合うのは難しく、市は保存を断念せざるを得ませんでした。

 「くっきり残る天地返しの跡を見て感激した。1500年以上前の古墳がつぶされるのは残念でもったいない」。6月に市が実施した現地説明会を訪れた奈良県平群町の会社員中岡 敬善のりよし さん(59)は、そうため息を漏らしました。堺市東区の樽野美千代さん(76)も「墳丘がなくなると忘れ去られる。悲劇が繰り返されないよう、対策を徹底してほしい」と残念がりました。

 そうした声に私も共感しますが、文化庁の担当者に話を聞いてみると、また違った難しさも見えてきます。「開発行為すべてに強い規制をかけることは、財産権を尊重する観点からできない」。その上で、担当者は「重要な遺物と価値が特定できた場合は史跡に指定し、法の網をかけることではっきり守っていく」と力を込めました。

市は今回の事例を教訓に、古墳群を保全し、次世代に引き継ぐ方法を検討していくとしています。

読売新聞

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