市議も知らないうちに……
自分の住む街で、多くの市民が知らないうちに大型産廃焼却炉の計画が進んでいたら、あなたはどう感じるだろうか。そんな状況に直面しているのが、大阪南部に位置する和泉市の住民たちだ。
地元メディア関係者が解説する。
「来年度の完成を目処に大型の産廃焼却炉の建設計画が進んでいます。許認可権を持つ大阪府は既に環境アセスメントを進めており、評価の最終段階にある。建設予定地は住宅街から近く、ダイオキシンなどの公害の被害が隣接する岸和田市の一部にも及ぶとみる専門家もいます。
問題はこの状況をほとんどの市民が把握していないこと。市民はおろか、市議会議員にも認知は広がっておらず、市の広報に対して疑問の声が上がっている。環境被害を憂い、一部の市民たちが住民運動を起こす事態に発展しています」
南大阪は大阪の中でも農業が盛んな地域であり、市民に農家が占める割合が少なくない。和泉市や岸和田市の農家が中心となって、市や開発企業に対して抗議しているという。『FRIADYデジタル』は市民運動の当事者との接触に成功した。1年以上この活動に関わっているという岸和田市在住の吉岡果歩さん(仮名)が憤る。
「’23年10月、隣町の忠岡町の産廃焼却炉の建設計画に反対する署名活動に参加しました。維新の会に所属する町長が『産廃焼却炉反対』を掲げて当選したにもかかわらず、手のひらを返したことに疑問を持ったのがキッカケです。この問題を熱心に追及する町議さんがいて、その方のおかげでダイオキシンによる環境公害や農作物の被害の可能性などについて理解しました。
その中で、和泉市でも建設計画が立ち上がっていることを知ったのです。私の家は郊外の影響をモロに受けるエリアに建っており、人気の新興住宅地も影響を受けることがわかった。建設予定地の3㎞圏内には大型の商業施設や量販店、道の駅もある。そんな現実をほとんどの市民が知らないということに強い危機感を覚えています」
排ガスの希釈を求めるが……
昨年11月末、「有志の会」が立ち上がった。現在、30名ほどの市民が所属しており、環境公害の影響などを訴えている。府の主導で住民説明会が開催されていたものの、吉岡さんによれば参加者は限定的で、当該地区のほとんどの住民が、産廃焼却炉が建設予定であることを知らないという。吉岡さんが語気を強める。
「市の発行物や広報便りに載せるなどして、周知する義務があるのではないでしょうか。ほとんどの市民が産廃焼却炉の建設計画を知りません。情報を得て、納得した上で計画が進むことと、周知されないまま進むのでは全く意味合いが異なる。市には広報責任も求めていくつもりです」
建設予定地の一部の農家には廃業する者も現れている。
政治の世界にも、疑問の声を上げ、動き始めた人がいる。井舎英生・岸和田市議(78)だ。大阪市立大学大学院で工学博士を取得し、環境問題に長く取り組んできた井舎氏は専門家らと一緒に大阪府や和泉市、事業者との話し合いを進めてきた。井舎氏らは「想定される環境負荷の軽減・改善は工夫により可能」だとして、50m想定の煙突の高さを150mに増設し、排ガスの拡散・希釈をすることを強く求めている。
「50mでは強風が吹いた時にダウンドラフト現象(煙突から排出された煙が、風下にある建造物の後ろで生じる渦に巻き込まれて降下し、滞留する現象)が起きるリスクがあります。それは煙突を高くすることで解決できる可能性が高まります。端的にいうと、煙突が高いほど排ガスなどの濃度が下がるからです。大学教授などの専門家の意見も一致しています。また、計画にあるストーカ式焼却炉は現行の焼却炉と比べると、有害なダイオキシンが約10~40倍発生する可能性がある。そもそも我々は、大阪府の環境アセスメント審査を信用していません」
井舎氏は昨秋、審査の会議録を求めて大阪府に情報公開請求を行った。環境アセスメントの原則は情報の透明性が担保されるべきと考えていたためだ。しかし、大阪府から開示されたのは多くの箇所が黒塗りにされた会議録だった。
後編記事『【ほとんどが黒塗り】産廃焼却炉建設問題で揺れる大阪府和泉市・府から届いた信じられない回答の中身』では、情報公開請求後に届いた、大阪府からの信じられない回答文書について詳報する。
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