「『ATMで還付金が戻ります』は、絶対に詐欺!」
堺市役所前の広場をステージにして、女性たちが特殊詐欺の被害防止を訴える寸劇を披露しました。中心にいたのは宮里真澄さん(78)。2023年に結成した特殊詐欺被害防止対策チーム「オバスターズ」の代表です。
堺署の女性署員から「ボランティアを集めてほしい」と相談を受けたのが始まりです。60歳以上の女性で「特殊詐欺対策チーム」をつくる、というのです。民生委員や行政相談委員などをしていたつながりを生かし、「この人なら」と思う人に声をかけました。
区の広報でも募集し、一昨年の7月下旬に15人が集まりました。実はメンバーが決まるより前に、その年の10月に堺市のコンサートホールで、約30分の寸劇披露をすることが決まっていたんです。「どういうことすんの?」「せりふ覚えられるやろか?」と、不安ばかりでした。
ところが、メンバーには人形劇や詩吟、朗読など多彩な経験や能力をもつ人がそろっていました。化粧品会社に勤めた経験があり、映えるメイクを教えてくれる人もいます。
最近では、私たちの寸劇を見て「話を聞くだけでは理解できなかったが、手口がようわかった」という感想をいただきます。寸劇を思い出して、お金を振り込むのを踏みとどまったという人や、実際に特殊詐欺を未然に防いだメンバーもいます。
チーム結成より遡ること、約5年。同じ地域の70歳代の女性が特殊詐欺の被害に遭いました。普段からしっかりしていて、とても詐欺に引っかからないような印象の人でした。ところが、息子を名乗る巧妙な電話を信じ込み、600万円を振り込んでしまったそうです。
女性はショックで家から出られなくなり、認知症も患いました。すぐ近くで被害が起きていたのに気づけなかった。どないしたらええの、と自問自答し、「少しでも詐欺に遭う人を減らすよう、何かしなければ」と思い立ちました。
詐欺に遭うのは、自分たちと同じ年代が多い。「絶対にだまされない」と自信があったり、「人には相談しなくても大丈夫」と思ったりしている人こそ危険です。地域の中でいっぱい会話し、情報を交換して、気軽に相談できる関係づくりが必要だと思っています。
被害に遭いかけたのに、警察に連絡することを敬遠する人がいます。同じおばちゃんだから、その気持ちがわかります。制服を着て体格の良い警察官に、少し強い口調で対応されると、こっちは一歩引いてしまうのです。
チームの愛称は「オバスターズ」。おばちゃんが犯罪を追い払う、そして星のように輝く集団という意味を込めました。思われがちな、ヒョウ柄の服でぐいぐい来る「大阪のおばちゃん」のイメージとは違います。もう少し上品で、親しみのある、素敵なメンバーばかりです。
同じ世代が世間話をするように、詐欺の手口や気をつけるポイントを話せば、少しは心に留めてくれるはず。そう信じて一生懸命、活動しています。
人生、「あとは終活だけ」と思っていたのに、また一つ違う世界が広がりました。今後は、詐欺を防ぐだけでなく、高齢者の健康などにもつながっていく息の長い活動になればいいなと願っています。その可能性を、オバスターズは秘めていると思うんです。(聞き手・北口節子)
◆堺市生まれ。市の民生委員・児童委員を30年以上、行政相談委員も長年務めている。オバスターズは現在35人。本当は人を引っ張るような性格ではないけれど、「一生懸命なところを買ってもらっているのかも」と話す。
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