関西の鉄道沿線を訪れ見どころを紹介する『ふらっとホーム』シリーズ。久しぶりの登場となる今回は「堺市」だ。《古墳》《自由都市》《鉄砲》《お茶》の街―と中学生の頃に習って知ってはいるけれど、一度も訪れたことがない。そこで「ふらっと」行ってみた。あるパンフレットを見つけた。『観ボラがおもてなしの心でご案内します』。観ボラって何や? 黄色い服を着た男女たちが愛想よく笑っている。何者? 興味がわいたので、ここから始めてみることにした。
ツアーの企画も
堺市へ行くにはいろんな経路がある。
海に近い方から南海電鉄本線の堺駅。阪堺電気軌道は浜寺駅まで通じ、南海高野線の堺東駅にJR阪和線の堺市駅。そして大阪メトロ御堂筋線のなかもず駅に泉北高速鉄道の中百舌鳥駅と実に盛りだくさん。
「観ボラ」、いわゆる「NPO法人堺観光ボランティア協会」は、堺東駅近くの堺市総合福祉会館に本拠を構えている。訪ねると川上由(ゆかり)広報部長が応対してくれた。
長身でがっしりとした体格に優しそうな顔。昭和30年4月生まれの69歳、筆者と同級生だ。とたんに親しみがわく。元化粧品会社の営業マンだ。
川上部長によれば「観ボラ」の創立は平成7年3月でことし30周年を迎える。会員は220人。おもな仕事は堺市の代表的な観光スポット(11カ所)に待機しての観光案内。ツアーガイドや事前に申し込めば希望に沿ったツアーも企画してくれるという。
「各ボランティアのみなさんは日頃から一生懸命に勉強していますからね。深い話、面白い話がいっぱい出てきますよ」
ところでボランティア会員には誰でもなれるのだろうか。
「毎年、3月に募集しています。だいたい30人ぐらいの応募があり、説明会で半分ぐらいに減っちゃいますね。覚えることもけっこう多いですから」
それでも「やるぞ!」と決めた人が4月からの入門講座(約2カ月間)を受ける。先輩ガイドが先生役になって必要な知識を伝授するという。そりゃ大変だ―というと川上部長は笑って手を振った。
定年後に学べる
「実はうちの会員は元先生が多いんです。中学や高校の社会の先生。それに公務員の方が定年になって…。だから教えるのはみな得意なんです。新人だけでなくボクたちも、プレゼンテーションのやり方や人権、マナーなどの一般研修を定期的に受けているんですよ」
――合格、不合格はあるんですか?
「それはありません。入門講座でまず仁徳天皇陵と市役所21階展望ロビーの案内を学び、それから約1年弱の時間をかけて9カ所の名所案内をじっくりと学んでいきます」
それにしても不思議に思う。これだけ一生懸命にやってもお給料は出ないのだ。ボランティアだから当たり前といえば当たり前なのだが…。このあと川上部長といくつかの観光ポイントを回ったが、ボランティアの人たちはうれしそうに、楽しそうに観光客を案内している。
働いた分だけの対価をもらうのが当然―と信じてきた筆者は心が貧しいのだろうか…と、ふと思ってしまう。
「定年を迎えて次に何をやろうかと考える。何かを習うにしてもお金がかかる。でも、このボランティアはいろんなことを学べて、人と会って話をしてそれで交通費ももらえる。最高じゃないですか」
堺市の《観ボラ》とは、聖人の集まり―とみつけたり。
人材の宝庫 配置は公平に
観ボラ内はいくつかの部署に分かれている。川上さんたちが所属するのは「広報部」。そのほかに交通費や会員の配置を作成する「総務部」、新人研修で先生役をつとめる「研修部」に「事業開発部」や「ツアーガイド部」「定点ガイド部」など6部署と全体をまとめる事務局が置かれている。
「どこの部署になるかは入会したときにまず《くじ引き》で決まり、一定の期間がたつと希望部署に行けます」。実に公平なのだ。公平といえば、誰が、どこの観光スポットで配置に就くか―はコンピューターがランダムに決めている。
そりゃそうだ。「仁徳天皇陵古墳」の案内人は吹きっさらしの拝所でお客さんを待つ。それに比べ「鉄炮鍛冶屋敷」や「堺市博物館」「さかい利晶の杜」は冷暖房の効いた室内。待遇面でかなりの差がある。
実はそのシステムもコンピューターの設定に詳しい会員が構築した―というからすごい。「いろんな職種を経験したひとたちの集まりですからね。経理が得意な人もおれば、先生もいる。ボクのようなやわらかい仕事をしてきた人間は珍しいんですよ」と川上部長は照れた。
課題は高齢化?
ボランティアさんも年々高齢化が進んでいるという。定年が65歳や70歳になり、どの会社も定年延長が当たり前の時代。応募者の年齢が高くなっているのだ。
「ウチの男性の平均年齢が75歳、女性が72歳。動けるのはせいぜい80歳まで。それ以上になるとやはりキツイ。ですから、子育てが終わった女性の方にも来てもらいたいんです。長く動けますからね」と川上部長。
高年齢化はどの都市のボランティアも共通の悩みだそうだ。
この記事へのトラックバックはありません。