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南大阪の魅力 まずは食「南海電気鉄道 遠北光彦会長兼CEO」(読売新聞)

 少子高齢化が進む一方で、都市部への人口集中が続いている。地域のブランド力を高め、地方ににぎわいを取り戻すには何が必要なのか。大阪商工会議所は、大阪府南部(泉州・南河内両地域)と大阪都心南部を合わせた地域の一体的な発展を目指す「グレーターミナミ」構想を打ち出している。同会議所で、構想推進委員会トップの遠北光彦・南海電気鉄道会長兼CEOに現状や展望を聞いた。(聞き手 畑中俊)

潜在力高める

 国立社会保障・人口問題研究所の予測では、2050年の大阪市の人口は20年比で1割減少し、泉州地域など大阪南部は3割も減る。このままでは、今と同じような街の機能は維持できなくなるかもしれない。こうした課題に対応するため、大阪商工会議所は18年、大阪都心南部と府南部を一体的な経済圏「グレーターミナミ」として発展を目指す構想を打ち出した。

 いま、大阪経済の中心は大阪市と北大阪にあり、地域の活力の差から「南北格差」とも言われるほどだ。人口減少にどう 対峙たいじ していくかは、地方にとっても、企業にとっても切実で、重要な問題になっている。

 顧客が減り、働き手が足りず、消費活動が衰退すれば、経済は成り立たなくなっていく。今からあれこれと手を打っても、結果が出てくるのは20年先、30年先だ。

 経営者としての危機感は強いが、事業を展開するこの地域には、人を魅了し、定住させるような豊かな自然や食といったポテンシャル(潜在力)がある。観光客や働く人を増やし、活力を生み出していくことができるエリアだ。

 まずは、地域に点在している観光資源や自然、文化といった魅力を総合的に打ち出し、価値を高めていく「ブランディング」が必要になる。

低い知名度

 その核となるグレーターミナミの魅力とは何か。キーワードの一つは「食」だと思う。

 泉州、南河内両地域は豊かな自然が残り、ナスやタマネギをはじめとする野菜、モモやイチジクなどの果物、加えてタコやアナゴといった海の幸にも恵まれている。訪れた人の舌を満足させるだけの食材が豊富にあるが、地域の外に伝わっていない。

 泉州には特産の水なすがあるが、南河内にもおいしいナスがある。ブドウの生産量が多く、羽曳野市や太子町、大阪狭山市など、産地が広がっている。地元ではよく知られているが、少し離れると、知名度が一気に下がる。

 かつて、泉州のタマネギといえば全国にその名をとどろかせていたが、近年、知られているのは淡路島産だろう。

 淡路島に視察に行くと、手軽な値段で手に取れる販売拠点がしっかりと整備され、あちこちで、つかみ取りや詰め放題といったイベントもあった。消費者にとって「タマネギといえば淡路島」ということを強く印象づけるだけの取り組みが進んでいる。しかも、行政や地元だけでなく、レストランやカフェを展開するパソナのように、進出企業も地域の魅力を高めるブランディングに一役買っている。

自然や立地も

 グレーターミナミでも、食材ごとの取り組みや市町村単独のPR策だけではなく、より広く「おいしいものがたくさんとれる泉州・南河内」という、エリアが一体となった打ち出しが少しずつ生まれてきた。

 泉大津市で大阪調理製菓専門学校を運営する村川学園は、泉南市の梅や貝塚市の菊菜といった泉州エリアの地域食材をアレンジしたチョコレートを開発した。学生考案のご当地メニューコンテストなど、自治体や他企業とも連携し、食材の新たな楽しみ方を広める取り組みに力を入れている。

 もちろん、グレーターミナミの魅力は食だけではない。

 空の玄関口である、関西空港に近い立地も生かしたい。堺市や藤井寺市、羽曳野市にまたがる「 百舌鳥もず ・古市古墳群」は世界遺産に指定された。景観にも優れ、「日本の 夕陽ゆうひ 百選」に選ばれた海岸がいくつもある。日本で過ごす最後の1日に大阪南部を選んでもらえるようなプロモーションも考えていく。

 12日には、エリア内の各商工会議所や企業、大学といった大商の推進委員会メンバーらが集い、取り組みの進展に向けたシンポジウムを開き、意見を交わし、知恵を出し合う。大阪全体の活性化につながるグレーターミナミの発展に一体となって取り組んでいきたい。

<南海電気鉄道>

 大阪市浪速区に本社を置く、私鉄大手。南海本線で、大阪(難波)と和歌山(和歌山市)をつなぎ、訪日客の玄関口となる関西空港とを結ぶ特急「ラピート」などを走らせる。地域活性化に向けて、地場産業を発展させてきた沿線企業を応援し、発信する「オープンファクトリー」などのイベントも展開している。

ブランドに昇華 欠かせず 

 大阪南部は第1次産業が盛んで、南河内と泉北、泉南の3地域で、大阪府の農家数の56%を占める。堺市から、最南端の岬町にかけて、13の漁港もある。「食材の生産地としての基盤は十分に整っている」(遠北氏)のは間違いない。これらに付加価値をつけ、広く発信していくことが必要になる。

 海外に目を向けると、美食の街として、食文化をブランドに昇華させた事例として、スペイン北部バスク地方のサン・セバスチャン市がよく知られている。

 人口20万人足らずだが、新鮮な地元食材をいかし、趣向を凝らした料理を出す「バル」と呼ばれる飲食店が街中にひしめき、提供されるタパス(小皿料理)を求め、世界中から観光客が足を運ぶ。シェフ同士がレシピや技術を教え合い、共有し合うことで、食のレベルを底上げしてきた。

 南大阪でも、それぞれの資源が持つ潜在力を、地域独自の魅力に高める食のイノベーション(革新)を起こせるかが鍵となる。各地の生産者や料理人らが集い、知恵を凝らすことで、独自の食文化を生み出せれば、世界から訪れる人を魅了できるはずだ。(畑中)

読売新聞

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