14日、大阪府阪南市の廃虚となっている旅館で火事が発生しました。「心霊スポット」として侵入者が後を絶たず、不審火の疑いがあるということです。
全国で同じような事案が頻発していて、取材を進めると、廃虚をめぐる「深刻な実態」が見えてきました。
■廃虚となった温泉旅館で火事
窓ガラスが全て抜け落ち、荒れ果てた巨大な建物。大阪府阪南市山中渓にある廃虚となった温泉旅館で、14日の早朝、火事が発生しました。
【記者リポート】「今回燃えたのは、向こうに見える建物の2階の1室だということです」
火元には古い畳が置いてあり、約50平方メートルが焼損。なぜ誰もいない所から火が出たのでしょうか。
このエリアはかつて温泉街として栄え、火事があった旅館は1930年に開業。しかし1974年、すぐそばに阪和自動車道が開通した影響などから客が立ち寄らなくなり、旅館は廃業。建物だけが残り、20年ほどが経過しました。
いまは、近隣住民の「悩みの種」になっています。
【近隣住民】「ネットで『廃虚・幽霊スポット』とある。夜中に何人かで訪れたり。山火事とかこのごろたくさんありますが、ボヤが燃え移って近隣に延焼したりしたら大変なんで…」
【近隣住民】「(火事は)前もあって、2回目」(Q.原因は?)「前はたばこの不始末。吸ったらしい」
警察によると、今回の火事も侵入者による不審火の疑いがあるということです。
■全国各地に廃虚となった宿泊施設がある
このような、廃虚となった宿泊施設は、全国各地にあるとみられ、和歌山の観光地では。
【記者リポート】「ここも廃業した旅館でしょうか。建物が崩れた跡で、木が折り重なるように捨てられています」
美しい景観が有名なエリアですが、そこら中に廃棄物が。隣にも廃業した旅館があり、玄関には土のうが置かれています。放置されたバスには無数の落書きがあります。
去年はここで、820平方メートルを焼く火事が発生し、市が管理の改善を求めて行政指導をする事態に発展しました。
しかし、取材中にも…
【記者リポート】「観光客でしょうか。無断で敷地の中に入ってしまっています」
■ユーチューバーなど不法侵入後を絶たず 高額費用が問題で解体進まず
さらに取材を進めると、日本有数の温泉地で、より危険な状態に陥っている場所がありました。栃木県の鬼怒川温泉にある廃虚ホテル。ホテルの内部は、天井や壁などがいつ崩れ落ちてきてもおかしくない状況で、人体に影響を及ぼすアスベストの飛散が確認されました。
非常に危険なため、市は立ち入りを禁止していますが、ユーチューバーなどの不法侵入が後を絶ちません。
なぜ解体されないのか。大きく立ちはだかっているのが、最大数十億円という費用です。
【日光市建設部建築住宅課住環境係 青木雅彦課長補佐兼係長】「当該建物の解体はかなり高額なため、日光市が主体となって実施することは困難」
国が解体費を補助する制度もありますが、上限が1億円で、所有者も市も放置するしかないのが実情です。
■逆転の発想「廃虚の観光地化」
一方、逆転の発想で廃虚を活用している人がいます。NPO法人J-heritage(ジェイ・ヘリテージ)代表の前畑洋平さんです。
前畑さんの案内で向かったのは…
【前畑洋平さん】「通常は非公開になっています。今日は報道ということで特別に入っていただきます。旧摩耶観光ホテルです」
姿を現したのは「旧摩耶観光ホテル」。1929年に開業し、多くの観光客に利用されましたが、1993年に閉業しました。その重厚な見た目からファンには「廃虚の女王」と呼ばれています。
建物内へ進むと…
【前畑洋平さん】「天井落下物があるので、なるべく上にひび少ない所を通って」「ここは余興場と呼ばれている場所で講演会だったり、音楽的なイベントだったり行われていた場所」
閉業から約30年、いまも当時の面影を残しています。さらに奥へ進むと神戸の街を一望することができました。
【前畑洋平さん】「おそらく開業されたときも、この景色がすごく売りだったんじゃないかと思います」
廃虚ならではの問題で、かつては、サバイバルゲームなどをする不法侵入者が後を絶ちませんでした。
■「あえて立ち入り禁止にせず、応援する側になってもらう」
前畑さんは、「廃虚の観光地化」に取り組みました。
【前畑洋平さん】「あえて、立ち入り禁止にするのではなく、安全が確保された所から見ていただくことで、ここを応援する側になってもらう。仲間にするきっかけにもなっている」
旧摩耶観光ホテルを巡るツアーを開催したのです。
【前畑洋平さん】「『無理しなくても見に行けるんだ』と選択肢が増えたことで、不法侵入する人が減ったと思う」
廃虚問題の一つ、不法侵入者の数も激減したといいます。さらにツアーを開催することで収益化でき、管理やセキュリティー強化につながりました。
2021年には廃虚としては異例の登録有形文化財に登録されました。各地に存在する廃虚その新たな活用法が求められています。
■「所有権という憲法上の権利」が問題解決のネック
廃虚の利活用という選択肢もあるようです。
【橋下徹さん】「廃虚、紹介されたのはちょっと大きな建物ですけれども、一般住宅でもこれから空き家というものが、少子高齢化時代にどんどん増えてくるんです。そのまま放置している状態を、どうするかというのが、いま喫緊の課題になっているんです」
【橋下徹さん】「撤去ということが第一に思い浮かぶんですけど、利活用というのは第二の柱になりますよね。ただ利活用って言うのは簡単だけど、難しいと思う。けれどもこういう(観光地化して利活用という)方策はあるんだなと感心しました」
国も含めてどう対策していくのかが問題になります。
【ジャーナリスト 鈴木哲夫さん】「大きな建物じゃなくて、空き家対策、東京とか大阪でもそうだと思いますが、とにかく法律が複雑。少しずつ変えていくのだけれども、なかなか解決しない。この分野で法改正など含めて、本気でやらないと…」
【橋下徹さん】「最終的には所有権という憲法上の権利を、どう乗り越えるかなんです。所有者がうんと言わないとどうしようもないところを変える。僕は憲法を乗り越えるような制度を作ればいいと思うんですけどね」
【ジャーナリスト 鈴木哲夫さん】「ある程度強制的にということも、やってもいいんじゃないですか?」
【橋下徹さん】「それでもやっぱり所有権が壁になる。そこは政治家が、憲法違反だと言われようが、それを乗り越えるような制度を作っていくべきだと思いますね」
これから少子高齢化が進む中、大きな課題になっていきそうな廃墟の問題。法律の整備も必要かもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年4月16日放送)
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