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【堺市】観光船でお濠巡り、堺のんびりクルーズ 橋の上に佇む南蛮人像が願いをかなえる(産経新聞)

桜が散ると、あっという間に新緑の季節。こんな日はゆっくりとボートに乗って「クルーズ」としゃれ込もう。実は堺では中世の自由都市だった時代にできた「環濠(かんごう)」を観光船で巡るツアー「堺のんびりクルーズ」が3月30日から始まっている。さっそく訪ねると、理事長の名前が高杉晋さん(60)。な~んか、歴史を感じるなぁ。

非営利目的

「観濠クルーズ」の乗船場は南海本線堺駅(堺市堺区)東出口から南へすぐの川のほとりにある。訪ねたのは桜の季節だ。すでにお年寄りや子供連れの観光客が救命具を着けて船に乗り込もうとしている。

船は定員18人の「フェニックス号№8」。堺ロータリークラブから寄贈された8艇目の観光船だ。船には船長と観光ガイドが乗り込む。乗船受け付けの人たちも含めて全員ボランティア。普段は自分の仕事をして、運航される土、日曜日だけスタッフとして活動している。

まず理事長の高杉さんにごあいさつ。最初のひと言は「格好いいお名前ですね」。「よく言われます」とまんざらでもない様子。ところで、なぜ「理事長」なのだろう。

「それはこのクルーズは営利目的ではないからです」。そういえば団体の名称もNPO法人「観濠クルーズSakai」だ。

「実は20数年前、ドブ川になっていたお濠(ほり)(内川、土居川)をきれいにしようと清掃活動をやりだしたのが始まりなんです。ボクが小学生のころ、この川はゴミとヘドロで真っ黒。あちこちでブクブクとガスが出ていて臭かった」

水環境改善

高杉さんはお濠のすぐそばにある堺市立市小学校と市立月州中学校出身。

「市小は大阪府で最初に教室が冷暖房完備になった小学校。進んでいたのではありません。においが臭くて窓が開けられなかったんです。月州中でも試合があると負けた相手が『試合で負けたんやない。この臭さに負けたんや』と鼻をつまんで帰っていきました」

なんとかきれいな川に戻したい-。大人になった高杉さんはカヌーに乗って川のゴミを拾いはじめた。するとその活動に共感した人たちが次々と川の掃除に加わった。もちろん堺市もヘドロの除去に動いた。

においも消えて魚たちが戻ってきた平成17年、NPO法人を立ち上げた。だからいまでも彼らは毎月1回、船上から川の清掃活動を行い、地元の小学生を授業の一環としてクルーズに招待し、堺の歴史や水環境の大切さを伝えている。

お濠の両岸の桜並木を眺めながらゆっくりと船は進む。魚がいるのだろう、鵜(う)がゆったりと泳いでいる。4月中旬には手描きの「堺五月鯉幟(さかいごがつこいのぼり)」が川にかかり、その下を船が進む。

乗船場から土居川へ。Uターンして内川へと進み、月州中を越えて再び逆戻り。乗船場の前を通って今度は海へ。堺旧港-龍女神像―壁面アート「浪漫やさかい」―旧堺灯台-乗船場。たっぷり50分のクルーズだった。運航は11月末までの土、日曜日のみ。料金は大人1500円、小学生以下500円。運航時刻の確認、予約は「堺のんびりクルーズ」のホームページ(HP)で。(田所龍一)

豊臣が埋め、徳川が復元

15世紀から16世紀にかけて堺は日本一の海外貿易港として栄えていた。世は戦国時代、各地で戦が起こり町が焼かれると、貿易で富を得た商人たちが海を背に三方に濠をつくり、入り口の橋には門、濠の隅々には櫓(やぐら)を建てて外敵からの攻撃を防いだ。これが「環濠都市」堺の始まりといわれている。

「観濠クルーズ」で回るお濠は当時のものではない。天下を統一した豊臣秀吉によって一度、濠は埋められたのだ。副理事長の香川靖さんによると「大阪の隣にお濠のあるような栄えた都市があるのは気分が悪い―と秀吉さんが埋めはったんですわ」という。

その秀吉が死に関ケ原の戦いの後、徳川幕府が誕生。そして大坂冬の陣で堺は幕府方を応援した。大坂夏の陣が起こると豊臣方は「徳川に味方したから」と堺の町に火をつけ焼き払ってしまう。

戦ののち徳川幕府は堺を直轄地として復興、街を碁盤の目に区画した。これを「元和(げんな)の町割(まちわり)」と呼んでいる。そして周囲にもう一度、お濠を掘り直した。これが今の「環濠」である。

橋の欄干にリボン

「わたくし『橋上(はしのうえ)ポルト之助』と申します」

乗船場のすぐそばに架かっている「南蛮橋」の真ん中に1体の南蛮像がある。昭和62年、南海本線の高架化にともない、南海が橋と一緒に造ったもの。

高杉理事長によると「観光客の方から『あれは誰?』とよく聞かれたんですが、ずっと名前がなかった」という。

そこで一般に名前を募集。そして像にまつわる物語「やくそくのリボン」も作られた。嵐に遭い、堺の町に漂着したポルトガル人と町娘との出会い。象徴となったのがお互いの気持ちを込めた「リボン」。願いを込めてリボンを巻くと、願いがかなうかもしれないという話につながり、欄干には「縁結びのリボン」がいっぱい。

「新しい堺の名所になってほしいですね。リボンを売って得た収入はリボン活動をされている団体に寄付しようと考えています」と高杉さん。物語の動画は「堺のんびりクルーズ」のHPからも閲覧できる。

産経新聞

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