ジェラートの製造・販売を手掛ける「フォレストバンク」(堺市北区)社長の小林亮さん(29)は「全国の農家を支援したい」との思いから、廃棄される農作物を仕入れて原料としています。現在は、大阪・関西万博がきっかけで交流が深まったアフリカ・マダガスカル産のバニラビーンズなどを使ったジェラートの開発にも取り組んでいます。
幼少期、夏休みなどの長期休暇には、宮崎県にある母の実家に遊びに行っていました。一日中、山や海で遊び、親族や近所の農家の人からもらった新鮮な野菜や果物を家族で食べるのが何よりの楽しみで、忘れられないくらいおいしかったことを今でも覚えています。
ただ、高校生の頃に久しぶりに訪れると、多くの農家が廃業していました。高齢化ともうからないことが原因でした。その時初めて、近所の農家からいただいていた農作物が道の駅の直売所などで売れ残ったものだと知ってショックを受け、「いつか日本の農家を助けたい」と思うようになりました。
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大学卒業後、「これからの時代はITリテラシーを身に付ける必要がある」と考えてIT企業に就職する傍ら、農家の実情や課題を知るため、休日には全国の小規模農家を訪ね歩きました。高齢化は想像以上に深刻でした。そうした中でたどり着いたのが、廃棄される農作物を買い取ることで農家の収益を増やしつつ、ジェラートに加工して販売するビジネスでした。
起業を決意し、関東の会社で1年間修業を積んだ後、「さかい新事業創造センター」(堺市北区)に事務所を構え、高石市にある祖父母の自宅倉庫を改装して工場として創業。和歌山のミカンや岸和田の桃、宮崎のマンゴーなど廃棄予定の農作物を使ったジェラートのほか、スムージーやピューレ、チョコレートも製造しています。
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万博の国際交流プログラムが縁で高石市との親交が深まったマダガスカルは世界有数のバニラビーンズの産地ですが、気候変動によるサイクロン被害やほかの農作物への転作の影響で生産農家が減少傾向にあると知りました。
発展途上国の商品を適正な価格で購入するフェアトレード(公平・公正な貿易)を通じ、生産農家が継続して生産できるよう支援したいと考え、バニラジェラートの製造を始めました。
輸入会社から仕入れた高品質のバニラビーンズをぜいたくに使い、隠し味として、日本の伝統食材・みそも、廃棄予定のものを少量加えました。9月に万博会場内で限定販売するとあっという間に完売。SNSでも「今まで食べた中で最も濃厚。バニラの風味がすごかった」「めちゃおいしい」と評判を集めました。
マダガスカルで有名なバオバブの木の実を使ったジェラートも開発。万博終了後も高石とマダガスカルが交流を継続していく「レガシー」として、市のふるさと納税の返礼品に採用されることになりました。
マダガスカルは、かつて「東洋一の海水浴場」として栄えた高石市と同様、海に育まれた国。第2弾、第3弾の商品も生み出し、この縁を大切にしていきたいと考えています。(聞き手・福永正樹)
◆堺市南区生まれ。大学時代には、世界の食料事情を知りたいと世界15か国を訪ねて食べ歩き、「日本の農作物の品質は世界一」と実感した。2024年7月に法人化した「フォレストバンク」の社名には「未活用の農作物から価値ある商品を生み出す」との思いを込めた。大学での講義やデザインの仕事もこなす。


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