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泉大津市の“夢の燃料”実演、「ドリーム燃料」ではなかった サステイナブルエネルギー開発の見解(ITmediaNEWS)

 前回、大阪府泉大津市の南出賢一市長による「合成燃料製造装置」についてのSNS投稿が物議を醸していることについて、泉大津市の見解を取り上げた。今回は、実演した技術を開発し、特許を申請中というサステイナブルエネルギー開発(宮城県仙台市)に話を聞いた。

 サステイナブルエネルギー開発は、2023年にも大阪市の花博記念公園鶴見緑地でも似た公開実証を行っていた。当時のテレビ報道によると、京都大学名誉教授で工学博士の今中忠行さんが設立したアイティー技研の技術を使い、水と大気中のCO2等から“人工石油”を生成する実証実験を行ったという。アイティー技研はこれを「ドリーム燃料」と名付けた。

 ただし今回、泉大津市で披露した技術は、前回とは異なるようだ。サステイナブルエネルギー開発によると、23年の公開実証の後、「触媒劣化対策や生成効率向上に向けたアプローチで見解の相違が生じたため、研究方針を分け、現在当社は同教授ならびにアイティー技研様との共同研究・技術的連携を行っておりません」という。

 「泉大津市で稼働中の装置は、反応プロセス、装置設計、制御アルゴリズムまで全面的に刷新した新規仕様で構築されています。比較検証を目的として、鶴見緑地実証で用いたものと同一仕様の光触媒(特許第5082034号に基づく技術)を暫定的に採用しておりますが、商業化段階では課題が残るため、当社は現在、より高耐久・高効率な新規光触媒の開発と特許戦略を進めております。新触媒に置き換えたうえでの実証運転へ、段階的に移行する計画です」。

 また、泉大津市に聞いた特許の件については「当社が出願中の複数の特許技術が適用されています。現在、これらの特許はいずれも審査請求中であり、出願番号や発明名称などの詳細は特許公報として公開されるまで非開示とさせていただきますので、何卒ご理解ください。なお、暫定的に使用している光触媒については、既に公開済みの特許『特許第5082034号』(特許権者:株式会社エルプラン他)に基づく技術をベースとしており、同社から購入したものを使用しています」と説明している。

 一方、同社はSNS上のさまざまな意見は把握しており、「一つ一つの反応」は望んでいないとした。ただし、コミュニティノートなどに見られた3つの主な疑問について、同社の見解が文書で届いたので、全文を掲載する。

疑問点1:軽油は本来無色透明だが、実験ではグリーンに着色された状態で出てきたのはなぜか?

サステイナブルエネルギー開発の見解

 本実証では、市販軽油を「種油」として油相に保持し、その油相中の炭化水素鎖とカップリングさせて鎖長を伸長させる反応を行っています。生成された炭化水素分は反応器内で直ちに種油と均質化するため、外観は種油の色調をそのまま引き継ぎます。日本国内で流通する軽油の多くには、流通経路の識別や課税区分の明確化を目的に、ごく微量のグリーン系着色剤があらかじめ添加されています。

 本実証で使用した軽油も該当品であったため、増量分も同じグリーンの色調を帯びて排出されました。着色はあくまで元の市販軽油由来であり、当社の生成プロセスが燃料を新たに着色するわけではありません。したがって、無着色の種油を用いた場合には、生成燃料も理論的には無色透明になるはずです。

疑問点2:45分間で20Lの軽油(C12H26と仮定)を生成するには、理論上約14kgの炭素が必要で、それを空気から得るには6万5000m3も吸い込む必要がある。それには巨大なファンを高速で動かさなければならないはずだが、それを行っているように見えない

サステイナブルエネルギー開発の見解

 ご指摘の計算は、大気中(CO2濃度は約0.04%)から直接二酸化炭素を回収し、反応に供給することを前提としたものと理解しております。しかし今回の泉大津市実証では、反応条件の再現性と安全性を優先し、大気からの直接回収ではなく、高純度CO2を充填したシリンダーガスを炭素源として使用しました。

 20Lの軽油(C12H26を仮定)の合成に必要な炭素量に相当するCO2は、シリンダーから反応器へ制御流量で連続的に供給しているため、大容量送風機で大量の外気を高速吸引する工程そのものが存在しません。したがって、装置外観にファンが見当たらない点は仕様どおりであり、「約6.5万m3の空気吸引」を前提にしたご懸念は当てはまりません。

 なお将来的な商用プラントでは、内燃機関の排気ガスなどに含まれるCO2を炭素源として再利用するシステムの構築を検討していますが、今回のデモはあくまで「燃料合成プロセスと触媒挙動の検証」に特化したものです。

疑問点3:必要と推測される電力量に見合う太陽光パネルが使われているように見えない(仮に効率40%で生成→1800MJ≒500kWh電力必要、太陽光パネル45分間発電≒約3300m2必要)

サステイナブルエネルギー開発の見解

 ご懸念は、生成された軽油20L(化学エネルギー換算で約1800MJ、≒500kWh)と同等の電力を外部から投入すると仮定し、さらにその全量を太陽光パネル(発電効率40%と設定)だけで45分間に賄う前提で計算されたものと拝察いたします。しかし泉大津市実証で採用しているプロセスは、「熱エネルギーで反応物全体を高温高圧にする」従来型合成とは大きく異なり、紫外光×光触媒×ラジカル反応により常温常圧で進行させる点に特徴があります。

 反応のエネルギーバランスを模式的に示すと、まず油相中の炭化水素鎖とCO2を結合させるには、活性化エネルギーとして約80kJ/molの「上り坂」を越える必要があります。ここを「登るエネルギー源」が紫外光であり、当社装置では高効率UVライト(LED)を用いて電子を励起し、炭素を取り込むラジカルを生成しています。

 頂点を越えた後は結合形成に伴う発熱が約120kJ/mol発生し、差し引き40kJ/molが生成油に余剰エネルギーとして蓄えられる――いわば「光で坂を登り、下り坂のエネルギーは油の中に貯金される」仕組みです。したがって、外部から投入する電力量は「生成物の全熱量」ではなく、頂上までリフトで運ぶための最小限の光エネルギー+補助系統動力にとどまります。

 実証機(パイロット仕様)で測定した外部電力投入は、45分運転あたり約55kWhであり、太陽光パネルは一切使用しておりません。電力は装置に含まれるディーゼル発電機から供給しています。よって「約3300m2の太陽光パネルが必要」とするご試算は、本プロセスのエネルギー設計とは整合しません。

 今回のデモは 反応機構と触媒挙動の検証に特化しており、エネルギー自給型システムの実装は対象外です。

疑問点を再び聞いた

 ITmedia NEWS編集部では、サステイナブルエネルギー開発の回答を踏まえた上で、さらに疑問に感じた部分について再度問い合わせた。

ITmedia NEWSの質問

 回答の中で主張されている反応式は

CnH2n+2(液体)+CO2(気体)+H2O(液体?)+80kJ= Cn+1H2(n+1)+2(液体)+3/2 O2(気体)+120kJ

と読み取れます(新教育課程で熱化学方程式は廃止されていますが今回の例では説明しやすいので利用します)。熱の差し引きを整理すると

CnH2n+2(液体)+CO2(気体)+H2O(液体?)=Cn+1H2(n+1)+2(液体)+3/2 O2(気体)+40kJ

と変形できますが、これは「左から右へ反応を進めると40kJの発熱が起きる」ことを意味します。

 一方で、右辺に酸素があり、左辺に二酸化炭素があることから分かるように、右から左への反応は明らかに燃焼です。燃焼反応となるように整理すると

Cn+1H2(n+1)+2(液体)+3/2 O2(気体)=CnH2n+2(液体)+CO2(気体)+H2O(液体?)-40kJ

となりますが、例えば炭素と酸素の単純な燃焼反応では

C(黒鉛)+O2(気体)=CO2(気体)+394kJ

となるように、燃焼時には熱が発生します。

 しかし、上記の注目している反応では燃焼時にむしろ吸熱反応が起きることになってしまい、化学の常識であるエネルギー保存則に矛盾するように推察します。また、エネルギー差として40kJ程度で済むのかも個人的には疑問です。

 これに対するサステイナブルエネルギー開発の回答は以下の通り。

サステイナブルエネルギー開発の見解

 ご提示の式はCO2が一挙に分解して分子状酸素(O2)が放出される単段反応を仮定されていますが、当社プロセスはそうではありません。CO2を段階的に還元し、生成途中で生じる中間体を油相の炭化水素鎖へ取り込む多段反応で進行します。この経路ではO2が系外に放出されず、酸素原子は最終的に水(H2O)または水酸基(OH)として系内に留まるため、O=O結合(生成に約498kJmol-1を要する高エネルギー工程)は発生しません。――これが単純な「燃焼式」と熱収支が一致しない主な理由です。

 理論計算によれば、各段階で生じる放熱を差し引いた正味の余剰エンタルピーは数十kJmol-1規模(推計値およそ40kJmol-1)にとどまります。これはあくまで理論値であり、現在進行中のパイロット試験で実測検証を行う予定です。

 外部からのエネルギー投入は、紫外光源と補助動力を合わせて45分当たり約50kWhであり、生成燃料20Lが持つ全熱量(約500kWh)を電力で供給しているわけではありません。エネルギー保存則との整合性は、この前提を踏まえることで成立します。

 なお、反応機構の詳細(中間体種・触媒設計など)は現在特許審査中につき、現段階では開示を差し控えさせていただきます。

 なおも疑問は残るため、論文等がないか尋ねたところ、コア技術の特許出願中で、新規性を損なうおそれがあるため論文発表などは行っていないという。「ご指摘の疑問をすべて解消するには、触媒構造・中間体の反応経路・エネルギー収支の実測値といった未公開データを詳細に開示する必要があります。しかしながら、これらは今回出願中の特許請求範囲に深く関わる未公開の技術情報であり、現段階では開示できません」。

 同社は公表が可能になり次第、検証データを含めて十分な情報を開示するとしている。

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