堺市で半世紀前から続く地域寄席「おたび寄席」が21日に600回目を迎える。戦後、衰退していた上方の講談や落語の裾野を広げ、復興を後押しした地域寄席の草分け的存在だ。協力する地元の有志たちは「これからも話芸を磨く場を守りたい」と決意する。(前川和弘)「おたび寄席」で熱演する講談師の旭堂南照さん(11月22日、堺市堺区で)=前川和弘撮影
■■話芸磨く場
11月22日、開口神社(堺市堺区)の客殿に設けられた高座に、講談師の旭堂南照さん(66)が上がっていた。披露した演目は「家康の最期」。徳川家康が真田幸村に追い詰められていく様子を、釈台を張り扇でたたく音とともに小気味よく語り、約30人の観客を引きつけた。
「おたび寄席」は、南照さんの師匠で堺市出身の四代目旭堂南陵さん(2020年に70歳で死去)が中心となって1974年7月に始めた。月1回開催し、当初は、住吉大社宿院頓宮(堺市堺区)にある集会所が会場だった。落語家も数多く出演した。
当時、講談師や落語家が立てる場は少なかった。出身地などで地域の人たちの支援を受けて寄席を開き、互いに出演し合うことで出演機会を確保していた。
開演前や後に出演者と客が話し込むアットホームな雰囲気が特徴だ。南照さんは「客から『今日は声が出てたな』と褒められることもあれば、『笑いを入れなあかん』とアドバイスも受ける。演者を育てようという気概を感じます」と話す。
77年から出演する落語家の桂 枝女太 さん(67)も「『おたび寄席』はまさしく道場で、話芸を磨く場だった。僕らの世代はみんなお世話になった」と話す。枝女太さんの師匠で、上方落語の復興に尽力した五代目桂文枝さんは、独演会の前に「おたび寄席」でネタおろしをしたこともあったという。










