2022年8月に堺市西区で、女子大学生(当時20)が犠牲となった刺殺事件。被告の男(26)に懲役20年を言い渡した1審判決から1年半あまりを経て、控訴審の第1回公判が行われました。
被告の男(26)の弁護人は「動機の認定に誤りがある」として、“量刑不当”を訴えました。(松本陸)
ベランダから飛び降りた被害女性を… 階段を駆け下り執拗に刺す
1審判決によりますと、山本巧次郎被告(26)は2022年8月、堺市西区の路上で、元交際相手の女性(当時20)を文化包丁で複数回刺し殺害しました。 集合住宅4階の被害女性の部屋で感情が爆発した山本被告は、包丁で女性の両脚を多数回切りつけたうえ、右側胸部を刺したため、女性はベランダから路上に飛び降りました。
その後、山本被告は集合住宅の外階段を駆け下り、横たわっていた女性の胸部を刺しました。刺し傷は心臓や肺に達し、女性は失血死しました。 事件直後、山本被告は「人を殺しました」「(殺したのは)元カノです」「捕まえてください、待ってます」と自ら警察に通報。 駆けつけた警察官にも、「意思をもって殺しました」と話し、“被害者の浮気が動機だった” “別れるくらいであれば死んで、自分もいなくなった方がいい”などの旨を述べていました。
事件当日のことを「覚えていない」
しかし1審の公判で山本被告は、犯行そのものや、自ら通報したこと、さらには当日に被害者宅を訪れたことも「覚えていない」と供述。 弁護人も、裁判所選任の医師による精神鑑定に基づき「事件当時、被告は『非定型精神病』の圧倒的影響下にあった。刑事責任能力は認められない」などとして、無罪を主張していました。
成人式の日に撮った写真が最後に… 「笑顔で可愛い娘を返して」
1審の公判では、亡くなった被害女性の母親も意見陳述を行いました。 被害女性の母親 「大切に育ててきた娘の命、未来を、奪われた無念を伝えたくて、この場で証言します」 「娘が抱いた夢は、放射線技師になることです。人の命を助けたいと、中学生のころから目指していました」 「成人式の日のことです。自宅の庭で、『記念にママと一緒に撮りたい』と言って、写真を撮ってくれました。これが最後の写真となりました」 「安置所で布をめくって遺体を確認するよう言われましたが、刑事さんに布を取ってもらいました。やつれた顔をなで、優しく抱きしめることしかできませんでした」 「体中にある刺し傷を見ました。胸には何か所も大きな刺し傷がありました。大きな穴のようでした。“殺意の痕” だらけでした」 「娘はあの日からずっと、『どうして私が殺されたの?』と言っていると思います。明日が来ることに疑いもなく、夢に向かって邁進していたと思います」 「私の願いはただひとつ、笑顔で可愛い娘を返してほしいです」
1審判決は完全責任能力を認定 懲役20年を宣告
去年2月の判決で大阪地裁堺支部(荒木未佳裁判長)は「被告は自らに不都合な事情だけ“記憶がない”と供述しており、不自然だ。仮に現時点で記憶をなくしているとしても、当時の被告が状況などをよく認識・記憶できていたとの評価は変わらない」と指摘。 「犯行前後に奇異・不合理な言動はなく、犯行時も目的に沿った行動を取っている」などとして、当時の被告を「非定型精神病」と診断した精神鑑定の結果は採用できないと判断。「被告には事件当時、精神障害はなく、完全責任能力があった」と断じました。 そのうえで「重傷を負った被害者を見て、悔い改めて思い直すどころか、かえって殺害を決意し、何の抵抗もできない被害者の胸部を躊躇なく突き刺した。犯行態様が極めて悪質」「最後まで必死に生きようと助けを求めながら、執拗に刺された被害者の絶望は想像を絶し、20歳の若さで理不尽に生命を奪われた被害者の無念は計り知れない」と糾弾。 検察側の求刑通り、山本被告に懲役20年を言い渡しました。 この判決を不服として、山本被告側が控訴していました。
控訴審第1回公判 弁護人は「証拠が切り取られ動機認定に誤り」と主張
9月18日(木)に大阪高裁で開かれた控訴審第1回公判での弁論で、 山本被告の弁護人(1審から変更) は「1審判決の動機認定には誤りがある」と訴えました。 1審判決は山本被告の動機面について、「事件発生の4日前頃に、被害女性の浮気をきっかけとして交際を解消し、その後被告側が復縁を望んだが思い通りにならなかったことなどによって、怒りや絶望を高じさせたと合理的に推認できる」としました。
被告の弁護人は「捜査機関による証拠の切り取りが行われた」としたうえで、「被害女性と被告のメッセージのやり取りからは、むしろ女性側が復縁を望んでいた側面がうかがえ、被告に怒りや絶望があったかも不明だ」と指摘。 そのうえで、「1審では被告が多量の飲酒をしていた点が見過ごされている。被告は『複雑酩酊』状態にあった」と主張しました。
検察は「被害者への未練から犯行に及んだのは明らか」と反論 判決は来年2月
一方で検察側は、「被害女性と被告は別離と復縁を繰り返していた。被害者側に一時の迷いがあったとしても不自然ではない」「犯行直後の通報からもわかるように、被告が被害女性への未練から犯行に及んだのは明らか」と反論。控訴棄却を求めました。 第1回公判では、1審判決後の情状面に関する被告人質問も行われ、山本被告は改めて被害女性への謝罪の言葉を述べました。
山本巧次郎被告 「本当に申し訳ない気持ちで一杯です」 「自分が取り返しのつかないことをしてしまったことを反省しています」 「(被害女性の)放射線技師になって人々を救いたいという夢、結婚したいと言っていましたし、誰もが持てる夢を奪いました」
この日の公判では、今後の公判で、1審で“被告には精神障害はなかった”という意見を述べた医師への証人尋問を行うことも決まりました。 控訴審の判決は、来年2月10日(火)の第4回公判で言い渡される予定です。
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