日本製タオルの発祥地である大阪・泉州で創業90周年を迎えたタオルメーカーが新たな挑戦を始めている。貝塚市に本社を置く「ろ七タオル」だ。泉州産地の中でも唯一、高級ホテルや旅館専用のタオルにこだわり、厚手で肌触りのいいタオルを作り続けてきた。ただ、安価な輸入品が大量に流通する市場で生き残るのは難しい。そんな危機感を抱いた創業家4代目の兄妹が、世界のファッション展示会に出品するためのオリジナルブランド開発に着手した。
ろ七タオルの次代を担うのは、常務の田端悠暉さん(30)と広報担当の紗奈さん(26)の兄妹。悠暉さんは家業の危機感から同社に入社。紗奈さんも新しいことに挑戦する兄の姿に触発され、ミシンの縫製から仕事を始めた。その二人がオリジナルブランドを立ち上げるため、クラウドファンディングを通した全国への発信に力を入れている。
7月18日に開始したクラウドファンディングは、わずか5時間で目標金額の30万円を達成し、1カ月で100万円を超える支援を集めている。8月8日には大阪・梅田のグラングリーン大阪南館の健康増進施設「うめきた温泉 蓮 Wellbeing Park」での販売もスタートした。
イチオシは鮮やかなグリーンカラーが印象的なバスローブ(5万6000円)だ。大阪の隠れ家的メンズセレクトショップ「チェント・トレンタ」と協業し、2023年春に1カ月間で30着を完売したもの。素材には希少性が高く、高級シャツにも使用されるエジプト産ギザコットンを採用し、ふっくらとした肌触りと吸水性の高さを両立させた。高級感のあるタオル地全面に枯山水の織り柄が浮かび上がり、袖口にはチェント・トレンタのロゴであるラクダと、エジプトを象徴するピラミッドのデザインをあしらった。鮮やかなグリーンと落ち着いた深みのあるワインレッドを加えて2色で展開する。老舗タオルメーカーの技術力とセレクトショップの感性が融合した、ファッション性とラグジュアリー感のある一着だ。一般的なバスローブと差別化するため、おしゃれなガウンとしても着られる。
うめきた温泉ではバスローブと同柄・色のフェイスタオルとサウナハットを売り、クラウドファンディングではバスローブ、フェイスタオル、バスタオル、バスマットに加え、ベビーバスローブも返礼品として提供する。
ろ七タオルは昭和10年(1935年)、初代田端七治郎が創業した。同業者が薄手のタオルを大量生産する中、「まわりと同じことをしていては生き残れない」との思いから高級、厚手商品に狙いを定め、ホテル・旅館向けのタオルを製造してきた。ホテル日航関西空港や宿泊できる映画館「THEATER1」など多くの宿泊施設で採用されている。サウナや理美容、病院など業種に応じたプロ向けのタオルも作り続けている。
特徴は高品質な素材使いと職人技、泉州産地独自の製法にある。素材にはシルクのような風合いと光沢感、やわらかな肌触りを持ち味とするエジプト産ギザコットンなど世界各国の厳選した綿糸を使用する。イタリア製の古い織機で時間をかけて織り上げ、滑らかなタオル地に仕上げていく。糸の本数と密度は、耐久性が求められるホテルでの使用を考慮した。そこには90年の同社の歴史のなかで築いてきた独自のノウハウがある。
織り上がったタオルの糊や糸の油分等の不純物は、和泉山脈の豊富な地下水で洗い流す。そうすることで吸水性に優れて肌触りのいい、清潔で安全なタオルに仕上がる。この製法は今治タオルとは異なる、泉州産地ならではの「後晒し製法」というもの。洗い流した糊は、工場内で18時間ほどかけてバクテリアに食べさせて処理されるので地球環境にもやさしいという。
海外のファッション見本市に出展したい
伝統ある織りの技術と製法を守ってきた同社だが、「それだけでは次の世代にぼくら兄妹が大好きなタオルを残すことはできない」と、兄の悠暉さんは危機感を募らせる。ホテルや旅館向けのOEM事業を継続するだけでは「ろ七タオル」の名前はもちろん、自慢のタオルの存在を知る人が限られるからだ。
「ろ七」のネームタグが付くタオルは、年間約10万枚を生産する中の1000枚だけ。「世の中の多くの人がまだこのタオルの存在を知らない。その現状が正直とても悔しかった」と、悠暉さんはオリジナル商品を企画した理由を打ち明ける。
クラウドファンディングは、その第一歩となる。支援で得られた資金はまず、新商品開発に使う。四角いタオルの形状に縛られず、バスローブシリーズに続くアパレルも定期的に発表していきたい考えだ。いずれイタリアのファッション展示会「ピッティ・イマジン・ウォモ」に出展するのが目標だ。国内タオル産業にとってこれまでになかった新しい形の「タオル屋」をめざすという。手始めに今年、伊フィレンツェで開催された世界中のファッショニスタが集まるパーティーで、参加者には同社が製作したオリジナルのハンドタオルが配られた。
「泉州タオルには安いイメージが定着しているが、魅力をアピールして知名度を高めていきたい。先代から受け継いだろ七のタオルを世界に届けるのが僕らの使命と思う」(悠暉さん)。
SNSでの発信に力を入れる紗奈さんも「世界観が確立された、既成概念に縛られないタオル屋をめざす。こだわり抜いた人にこそ届く、知る人が知るブランドにしていきたい」といい、デザインやモノ作りに理解のある特定層を狙う戦略を打ち出している。
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