堺市のどこから見ていこうか―と思っていたら「スタートはここしかありませんよ」と指定されたのが『仁徳天皇陵古墳』である。観光ボランティアに応募してきた新人さんが最初に研修するのもこの場所。確かに堺市観光の最大の名所だ。さっそく行ってみることに。ええと、最寄り駅は?
JR阪和線の百舌鳥(もず)駅から歩いて5分のところに「仁徳天皇陵古墳」の《拝所》がある。実はここへ来るにあたって「なぜだろう?」と思う《妙な噂》を耳にしていた。
それは外国人観光客の間で「仁徳天皇陵古墳」が「札幌の時計台」「高知のはりまや橋」と並んで日本の3大ガッカリ名所といわれている―という噂だ。
古墳に着いた。三重のお堀がある。拝所の奥には鳥居があり、訪れた人たちは静かに手を合わせる。日本人なら厳粛な気持ちになるところだろう。お堀の向こうの小山のような森が「古墳」だ。
そのときふと「前方後円墳」はどこ? という気持ちになった。
古墳が大きすぎるのと拝所が近すぎるのとで、中学生の頃に社会科で習った「前方後円墳」の全体の形が分からないのである。当然、古墳の中には入れない。ピラミッドや秦の始皇帝のお墓のようなものを想像して来られる外国人観光客には「なぜ?」となるのだろう。
上空から見られれば、全体の形が分かるのに…。現時点では「古墳」の隣にある「百舌鳥古墳群ビジターセンター」や近くの「堺市博物館」で上空からの映像や埴輪(はにわ)やかぶと、鉄製の剣などの出土を見ることができる。でもやはり、実際に上から見てみたい。
堺市によると、令和5年春、気球を使って遊覧する計画が実現寸前だった。だが、本番運航直前に気球のガスが漏れて中止。それ以来、計画は文字通り宙に浮いている。
「耳より」の話…
気分を変えよう! ここで元気いっぱいの堺観光ボランティア協会の女性メンバーに出会った。広報部運営委員の和田千香さん(62)だ。まぁ、よくしゃべる。研究熱心で観ボラになるために生まれてきたような女性だ。いきなり質問された。
「日本で古墳の数はいくつあるでしょう」
「5千個ぐらい?」
「ブ、ブー。16万から20万個あるといわれています。その90%が円墳です。前方後円墳はそのなかで最も身分の高かった人のお墓です」
「なるほど…」
「この仁徳天皇陵は正式には《百舌鳥(もずの)耳原中陵(みみはらのなかのみささぎ)》といわれています。どうして百舌鳥耳原と言われるようになったかというと…」
ある日、仁徳天皇が自分のお墓をつくるためにこの地(石津川の近く)にやってきた。すると突然、一匹の鹿が人々の前に現れ、ばったりと倒れて死んでしまった。みんなが不思議に思って近づくと、耳の中から百舌鳥が飛び出した。
「百舌鳥が鹿の脳みそを食べていたんです。百舌鳥は肉食の鳥ですからね。それからこのあたりを『百舌鳥耳原』と呼ぶようになったんですよ」と和田さんはちょっぴり怖い話をした。
古墳が出来上がった当時はこぶし大の石が敷き詰められ(葺石)、太陽の光が反射すると白銀色に輝いて見えたという。約3万個の埴輪がきれいに並べられ、海からこの地を訪れた人たちに、大王の威厳と強大さをみせつけたことだろう。
円墳の中には石室があり大王の棺が安置されている。現在、古墳全体が木々で覆われているのは鳥たちが落とした樹木の種が自然に育ったもの。そしてのちに植樹されたものだという。歴史の長さを感じることもできる。でも…。
やっぱり、古墳は上から見てみたい!
しぼんだ気球遊覧計画
堺市が気球遊覧構想を打ち出したのは令和元年、仁徳天皇陵を含む「百舌鳥・古市古墳群」が大阪府初の《世界遺産》に登録されたとき。英国の気球会社と契約。2年春の運航を目指した。だが、コロナ禍で延期。
ようやく5年5月25日の運航が決まり、4月にヘリウムガスを注入。何度も試験飛行を繰り返し、運賃も決定した。ところが…。
5月8日朝、前日まで異常のなかった気球がしぼんだ姿で発見された。運航業者がしぼんだ原因の究明を英国の会社に依頼したが、なんとその会社が倒産。原因は分からずじまい。運航会社は現在、パリ五輪で気球運航したフランスの会社との契約を検討しているものの、暗礁に乗り上げた状態という。
東西結ぶ夢の「ロープウエー」
堺市には南海電鉄やJR、阪堺電気軌道に地下鉄…といくつもの鉄道が南北に通っている。だが、東西を結ぶ交通機関がなく、これまでも次世代型路面電車(LRT)計画などが浮かんでは消えた。
いま、市民の間で話題になっているのが「ロープウエー」。南海本線堺駅からJR堺市駅を結ぶ東西ロープウエー。これなら頓挫している「古墳群」の遊覧にも使えるのでは―という声があがっているのだ。
もちろん、実現にはクリアしなければならない多くの問題がある。だが、市内を《観光》と《交通手段》のためにロープウエーを走らせている都市はない。まさに一石二鳥。
気球も飛んでロープウエーも走る堺。胸がワクワクするような夢プランではないか。(田所龍一)
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