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【堺市】利休の故郷 お茶で誘客 お点前体験 町家をカフェに(読売新聞)

 茶聖・千利休が生まれ、活躍した堺市は、茶文化が今も息づく。幕末から続く茶専門会社が開いたカフェには遠方から多くの客が訪れる。千利休や茶の歴史を伝える市の施設も好評で、官民が茶文化の振興と茶を通じた観光誘客に力を入れる。

 堺市中心部近くにある、趣深い町家を改装したカフェ。茶の香りが漂う、落ち着いた雰囲気の中、客たちが急須で注いだ煎茶や抹茶を味わう。運営する茶製造販売会社「つぼ市製茶本舗」社長の谷本順一さん(66)は「ゆったりとした空間や時間も含めてお茶の良さ。それを感じられる場所を堺につくりたかった」と話す。

 堺は戦国時代、千利休を筆頭に茶人たちを輩出した土地だ。貿易の拠点だった堺に全国から輸出用の茶葉が集まり、谷本さんによると、幕末には茶に関わる業者が200を超えたという。

 しかし、昭和の戦災で茶を扱う業者は減り、同社も堺を離れて、隣接の大阪府高石市に移った。戦後の生活様式の急激な変化とともに、堺でも急須で茶を入れ、茶道をたしなむ機会が減った。

 茶文化が薄れゆくのを心配していた頃、知人から「200年を超える歴史をもつ町家が取り壊される。何かに活用できないか」と相談された。「堺で『ほんまもん』のお茶を味わえる場所にしよう」と思い立ち、町家を改装。上質な抹茶や煎茶を提供する「茶寮つぼ市製茶本舗堺本館」として、2013年にオープンすると、歴史を感じさせる空間で茶を楽しめる、と評判を呼び、市内外から客が訪れる人気のスポットに成長した。

 「お茶を身近に感じられることが、市民の誇りにもなる」と、本業の傍ら、市民向けに茶の入れ方教室を開催。18年頃からは、地元のライオンズクラブや市の協力で、茶の木を小学校や公園などに植樹している。

 市も堺の茶文化のアピールに取り組む。目指すのは茶を通じた訪日客の誘致だ。

 15年、市は千利休と茶の湯などがテーマの文化観光施設「さかい利晶の もり 」を開業した。三千家(表千家、裏千家、武者小路千家)の茶室をそろえた施設は珍しく、講師の指導で、本格的なお点前を体験できる。

 堺は、日本最大の前方後円墳・大山古墳(仁徳天皇陵古墳)など多くの歴史・文化の資源をもちながら、観光誘致にうまくつなげられないことが課題とされてきた。そうした状況の打開策の一つがさかい利晶の杜だった。近年、日本文化への注目の高まりも追い風となり、毎週のように海外から団体客が訪れ、23年度は約20万人が来場した。

 「何げなく訪れた堺で、本格的なお茶の文化に触れられるようにしたい」。さかい利晶の杜の運営ディレクター、宮本雅代さん(57)は力を込める。堺を「茶のまち」と広める取り組みは、さらに勢いを増しそうだ。(大阪社会部 前川和弘)

 大阪府の中南部に位置し、人口は80万6263人(2024年12月1日現在)。府内で人口、面積ともに2番目の政令指定都市だ。

 市内には仁徳天皇陵古墳など多くの古墳があり、堺と同府羽曳野、藤井寺の3市に点在する「 百舌鳥もず ・古市古墳群」は2019年に世界遺産に登録された。中世には貿易拠点として栄え、鉄砲の国内有数の産地でもあった。歌人・与謝野晶子の出身地でもあり、文化的な側面からも観光誘客を図っている。

茶の産地 活性化へイベント

 緑茶の国内での消費量は2023年の1年間に約7万トン。古くから日本人の暮らしに深く根ざし、海外でも日本文化の一つとして認知される茶を通じて、地域活性化を目指す動きが広がっている。

 国内有数の茶の生産、消費量を誇る静岡市は、11月1日を市の「お茶の日」と定め、イベントを展開する。生産現場などを訪ねる「お茶ツーリズム」も好評だ。

 宇治茶の産地である京都府和束町では、町内に広がる茶畑の景色が日本遺産に登録され、多くの人が町を訪れるようになったという。茶摘み体験や、景観を楽しむウォーキングなども人気を集めている。

読売新聞

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