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【堺市】亡き父の記憶、蜜蠟でカンバスに 堺の画家・龍神悦子さんが個展(朝日新聞)

 古代ローマから絵画や記録を保存するために使われてきた「蜜蠟(みつろう)」。ミツバチの巣から採取できるろうだ。堺市内の画家が、これを用いた技法で亡き父の記憶をカンバスに紡ぎ、個展を開く。

 堺市北区の龍神悦子さん。個展のきっかけは、父・五郎さんの永眠を知らせるため、昨年12月に友人らに送った喪中はがきだった。五郎さんは1月に85歳で他界していた。

 はがきには、写真店を営んでいた五郎さんが描いた2匹の青魚の水彩画を印刷した。「秋」と題され、魚の青と銀の皮が鮮やか。生き生きとしていて、今にもピチピチとはねそう。若いころに趣味で描いていたうちの1枚で、悦子さんが誕生した直後の作品だった。

 悦子さんは「私が生まれた喜びを表現したのかどうか、無口な人だった父に尋ねる機会はなかった。ただ、喪中はがきで絵を見た友人たちの反応がすごく良かったので、広く鑑賞してもらう場をつくりたかった」と語る。

 街や風景などからイメージを得て抽象画を描くのが、悦子さんの画風。1994年以降、大阪や東京のほか、韓国・ソウルでも個展を開いてきた。「次の個展で、父と娘の絆をアートとして発表できないか」と考えた。

 例えば、「My father’s work and family photos」と題した作品。

 認知症対策のため、父が介護施設で記入した100マス計算の用紙や家族旅行での集合写真などを、透明感のある蜜蠟でカンバスに定着させた。真ん中に配したのは、父が描いた青魚の絵を転写したガラス板だ。

 100マス計算の用紙を背景に、絵の具と蜜蠟を塗り重ねた作品も制作した。蜜蠟の技法で描くと、深みのある色合いになるという。

 個展は「Eternal Moment 時をつなぐ出会い」。約30点の絵画を出展し、うち10点が父と娘のコラボの作品になる。

 悦子さんは「蜜蠟が過去の作品を守りつつ、新たな命を吹き込む。そんな役割を持つことを大切にしたい」と話す。

 堺市堺区甲斐町東1丁の画廊「ギャラリーいろはに」(072・232・1682)で、2月28日〜3月12日の午前11時〜午後6時(3月6日は休み、最終日のみ午後5時まで)。入場無料。(辻岡大助)

朝日新聞

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