関西が舞台の隠れた名作・五木寛之「風の王国」…大山古墳(堺市)で異形の巡礼団目撃、漂泊の民の闇とロマンに浸る
作家・五木寛之の長編小説『風の王国』(1985年刊)は、関西を舞台に「漂泊の民」の記憶とロマンを描いた隠れた名作である。物語は、二上山で謎の女性と出会ったライターが、真夜中の大山古墳(仁徳天皇陵)で異形の巡礼団の礼拝を目撃する場面から展開する。彼らはかつて山と里の間を流動しながら生きた人々の末裔で、歩くことを修行とし、迫害の歴史を胸に各地を巡礼していた。
本作は伝奇ロマンとしての疾走感を備えつつ、明治以降に「山窩」と呼ばれ周縁化された人々への同化政策や差別の歴史にも鋭く切り込む。近年報じられた仁徳陵副葬品の所在不明問題とも重なり、作家の想像力が近現代史の闇に迫っていた可能性を示唆する。百舌鳥・古市古墳群を望む堺の風景は、歴史の奥行きと忘れられた記憶を静かに問いかけている。










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